「これ、うちの社員でもできませんかね」
見積書をお見せしたときに、いちばんよく返ってくる言葉です。まっとうな質問だと思います。外に払う分が減るなら、それに越したことはありません。
ただ、この問いにはひとつ前提のずれがあります。内製か外注かは、会社ごとに決める二択ではないということです。同じ会社の中でも、工程によって答えは変わります。
先に立場を明かしておきます。当社は「外注される側」です。「内製で十分ですよ」と書けば、その分だけ仕事は減ります。それでも書くのは、向いていない工程を無理に引き受けると、たいてい途中で止まるからです。止まった案件は、双方にとって損になります。
そもそも、二択ではない
AI活用と一口に言っても、中身は5つの工程に分かれます。
- 決める — どの業務の、どこを変えるのかを選ぶ
- 設計する — 変えたあとの手順と、人が残る工程を決める
- 構築する — 初期の設定、雛形、つなぎこみを作る
- 運用する — 日々、実際に使う
- 直していく — ずれてきた部分を手直しする
この5つを「全部うちで」か「全部よそに」で決める必要はありません。むしろ、続いている会社ほど工程ごとに分けています。
たとえば受発注メールの処理に毎日180分かかっていた会社では、最初に180分を「読む・判別する・転記する・調整する・確定する」の5工程に分けるところから始めました。発想は同じです。ひとかたまりに見える仕事を分けると、任せる先も分かれます。
分岐点は、この3つ
分岐点01「その業務は、これからも変わり続けますか」
いちばん効く問いです。
変わり続ける業務は、内製に寄せたほうがうまくいきます。理由は単純で、手直しのたびに見積と発注が要ると、小さな改善が止まるからです。「これくらいなら、まあいいか」と後回しになり、半年後には現場が独自の抜け道を作っています。
逆に、年に一度しか触らない工程や、一度作れば形が変わらないものは、外に出しても困りません。頻度の低いものを自社で抱えると、やり方を思い出すところから始めることになります。
分岐点02「うまくいかなかったとき、リスクを背負うのは誰ですか」
顧客に直接届くもの、法的な責任が生じるもの、金額が動くもの。この3つに触れる工程の判断は、外に出さないほうがいいと考えています。
EC商品ページの公開を5日から半日に縮めた案件では、キャッチコピーの完全な自動公開を途中でやめました。文章そのものはAIが十分に書けるのですが、店の雰囲気に合うかどうかの判断は店側にしかできません。結果、「人が1案選ぶ」形に戻しています。作業は任せ、判断は残す。分岐点はそこにあります。
データの扱いも同じです。何を入れてよく、何を入れてはいけないのかは、最終的に自社のルールとして決めるしかありません。ここを外注先に預けきると、運用が始まってから誰も答えられなくなります。
分岐点03「使う人の時間は、本当に出せますか」
内製のいちばん大きな費用は、ツール代ではありません。人の時間です。
費用を4つのBOXに分けた記事でも書きましたが、社内の人が使い方を覚え、手順を作り直す時間は請求書に載りません。当社がご一緒した案件では、社内側の稼働が週6〜8時間ほど必要でした。
「空いている時間でやります」という答えが返ってきたときは、いったん止まったほうがいいと思います。空いている時間は、たいてい空いていません。誰の、週の何時間を、どこから引くのか。ここが決まらないまま始めた内製は、途中で止まりやすいというのが実感です。
3つの分岐点を見る前に、自社がいまどの段階にいるのかを把握しておくと判断が速くなります。使う人がまだいない段階と、すでに何人かが触っている段階では、答えが変わるためです。60秒のAI成熟度診断は無料です。設問6つ、その場で結果が出ます。
内製の、見えない費用
外注の、見えない費用
公平を期すために、こちら側も書きます。
1つ目は手直しのたびに挟まる手続きです。金額の大小ではなく、「頼む・待つ」が入ること自体が改善の速度を落とします。分岐点01で書いたとおりです。
2つ目は契約名義。ツールやサービスの契約が支援会社の名義のままだと、離れるときにやり直しが増えます。契約前に聞くべき5つの質問の最後に「終わったあと、私たちだけで回せますか」を置いたのは、この理由からです。この記事は、その質問の続きにあたります。
3つ目は説明できない状態が残ること。動いてはいるが、なぜそう設定されているのかを社内の誰も説明できない。これは担当者が変わった瞬間に効いてきます。
内側に残すもの、外に出すもの
3つの分岐点を当てはめると、多くの中小企業では次のような配分に落ち着きます。
- 決める — 自社。どの業務が重いかは、外から見ても分かりません
- 設計する — 一緒に。業務の中身は自社、組み替え方は外の経験を借りる
- 構築する — 外に出しやすい。頻度が低く、一度作れば形が変わりにくいため
- 運用する — 自社。毎日触る人がいちばん速く、いちばん先に気づきます
- 直していく — 最初は一緒に、慣れてきたら自社へ
これは折衷案ではなく、3つの分岐点を当てはめた結果です。「決める」と「運用する」は変わり続けるうえにリスクを背負う側にあるので内へ。「構築する」は頻度が低いので外へ。そう分かれます。
ひとつ補足を。先ほどの佐賀の小売店で5日を半日にした最大の要因は、AIの機能ではありませんでした。店長と経理が順番に確認していた承認の流れを、権限を担当者に委ねて「即時確認」に変えたことです。これは外注先には決められません。いちばん効く変更が、たいてい自社にしか決められない場所にある — 内製と外注を考えるとき、覚えておいてほしいのはここです。
どちらを選ぶにしても、先に決める3つ
最後に、始める前に決めておくことを3つ。
1つ目、誰が触るか。役職ではなく個人名で決めてください。「情報システム担当」ではなく「◯◯さん」です。そのうえで、その人の週の何時間をここに充てるかまで書きます。
2つ目、どこまでを自社の言葉で説明できるようにするか。全部を理解する必要はありません。ただ「なぜこの手順なのか」だけは、社内の誰かが説明できる状態にしておきます。
3つ目、やめるときの手順。契約名義、手順書、データの引き取り方。始める前に決めておくと、続けるときの判断も軽くなります。
グローカルワークスは福岡市中央区で創業して20年、100社を超える企業の業務改善に伴走してきました。AI導入支援に限っても20社を超えます。自社の業務にもAIを使っています。支援の形と料金はサービスページに公開していますが、ご相談の結果「これは内製で十分です」とお伝えすることもあります。どこで分けるのが自然か、そこを一緒に見るところから始めていただければと思います。福岡・佐賀のほか、オンラインでも対応します。
なお、同じ配分にすれば同じ結果になるとは限りません。業務の作り方も、社内の人の慣れ方も会社ごとに違います。まずは1業務、数ヶ月から試すことをおすすめします。生成AIとの距離感の話から始めていただいても構いません。
よくある質問
AI活用は、内製と外注のどちらが安く済みますか?
支払う金額だけを見れば内製のほうが小さくなりますが、内製には請求書に載らない費用があります。社内の人が使い方を覚え、手順を作り直す時間です。当社がご一緒した案件では、社内側の稼働が週6〜8時間ほど必要でした。その時間を本業から引くことになるため、時給に置き換えると外注費と大きく変わらない場合があります。金額を比べるときは、支払額と社内の時間の両方を並べてください。
社内にIT担当がいません。内製は無理でしょうか?
工程によります。初期の設計や構築を自社だけで進めるのは負担が大きいと思いますが、日々の運用と小さな手直しは、その業務をいちばんよく知っている担当者のほうが向いていることが多いです。必要なのはIT知識より、業務の中身を知っていることと、手順を書き直す権限があることです。実際、ある案件で最も効果が大きかったのはツールの機能ではなく、確認と承認の権限を担当者に委ねた運用の変更でした。
外注で始めて、あとから内製に切り替えられますか?
切り替えを前提に契約していれば可能です。逆に、何も決めずに始めると切り替えのときに作り直しが発生します。契約前に確認したいのは3点です。ツールやサービスの契約名義が自社になるか、設定を変えたくなったときに誰が触れるのか、そして自社の担当者が読んで分かる手順書が残るか。この3つが揃っていれば、支援が終わったあとも自社で回せる可能性が高くなります。
決める前に、現在地を。
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