「補助金って、うちでも使えるんですかね」
AIを試してみようという話になったとき、費用の話と補助金の話は、だいたいセットでやってきます。ところが検索して出てくるページの多くは、金額と補助率の一覧から始まります。数字は分かりやすいのですが、実際にご相談を受けていて詰まるのはそこではありません。「そもそも、うちが対象なのか」「何から手をつけるのか」という、その手前です。
先に立場を書いておきます。この記事では具体的な金額・補助率・採択率を書きません。回次ごとに変わり、記事が古くなった瞬間に読む方を誤らせるからです。数字は必ず公式の公募要領で。ここで扱うのはその公募要領を開く前に、自社で決めておくことです。
2026年、名前が変わりました
まず、ここでつまずく方が多いところです。中小企業庁は2026年3月10日に「デジタル化・AI導入補助金2026」の公募要領を公開しました。正式名称は「中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金」です。これまでの「IT導入補助金」から名称が変わったもので、制度が無くなったわけではありません。
これは地味に効きます。検索すると古い名前で書かれた解説記事が大量に出てくるためです。そこに載っている金額や要件が今年度のものとは限りません。読んでいるページがいつの、どの回次の情報なのかを確かめる。これが最初の一手です。一次情報は次の場所で足ります。
- 事務局の公式サイト — デジタル化・AI導入補助金2026(公募要領・登録ツール・スケジュール)
- 制度全体の入口 — 中小企業庁、ミラサポplus
申請枠は複数あります。通常枠のほか、インボイス関連の類型、セキュリティ対策の枠、複数事業者が連携して申請する枠など。どの枠かで対象経費も上限も変わります。逆にいえば、自社の目的が決まっていないと枠は選べません。
「使えるか」の前に、3つ確認する
金額より先に確認していただくのが、次の3点です。実際には、ここでつまずくケースのほうが多いのです。
この3つは制度の骨格として例年おおむね共通していますが、細部は年度・回次で変わります。本記事の記述で判断せず、必ず今年度の公募要領で確認してください。
いちばん誤解されている3つ
誤解① 補助金は、値引きではない
補助金は原則として後払いです。導入費用はいったん自社で全額支払い、事業が終わって実績を報告し、確認を経てから入金されます。つまり手元の資金は先に出ていきます。「実質半額だから」で資金繰りを組むと、途中で苦しくなります。
もうひとつ。補助金では一般に、交付が決まる前に発注・契約・支払いをしてしまうと対象外になるという考え方が取られています。「先に契約して、あとから申請」は通らないことが多い。定めは制度ごとに異なるため、着手前に公募要領をご確認ください。
誤解② 申請すれば通るものではない
審査があります。要件を満たしていても採択されないことはあります。ですから「採択されたら導入する」ではなく、「採択されなくても、この投資をするか」を先に決めておく。これが実務的な構えです。
誤解③ 補助されない費用がある
補助の対象になるのは、ツールの導入にかかる費用です。一方で、AI導入の費用を4つに分けた記事で書いたとおり、実際にかかるものにはもう一つあります。社内の人が使い方を覚え、手順を作り直す時間です。これは補助金では埋まりません。ご一緒した事例でも社内側の稼働は週6〜8時間ほど必要でした。ここを見込まずに始めると、補助金が通っても運用のほうが止まります。
「うちの場合、そもそもどこから手をつけるべきか」。制度を調べる前にそこがはっきりしていると、話がずいぶん早くなります。60秒のAI成熟度診断は無料です。設問6つに答えると、いまの自社の位置と、次の一手の方向が見えてきます。
締切から逆算する
補助金は締切のある制度です。公募は回次に分かれ、それぞれに締切と、交付決定・事業実施・実績報告の期限が設定されています。
本記事の執筆時点(2026年8月27日に確認)、公式のスケジュールには、通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠について2026年9月29日(火)17:00という締切と、その後の交付決定が11月上旬の予定、事業の実施期間が2027年4月末までという案内が掲載されていました。複数者連携の枠は別日程です。ただし回次は随時追加・更新されます。最新は公式の事業スケジュールで必ずご確認ください。
逆算すると、こうなります。締切の日に間に合えばよいのではなく、その前に支援事業者を見つけ、アカウントを準備し、社内で「どの業務をどう変えるか」を決めておく必要があります。動き出しは締切の1〜2ヶ月前が現実的です。
制度に、業務を合わせない
ここが、この記事でいちばん書きたいところです。
補助金から入ると、順番が逆になりがちです。「対象になるツールは何か」→「じゃあ、それを入れよう」。この順番で決めた道具は、多くの場合、使われないまま残ります。現場の困りごとから出発していないからです。AI導入が失敗する5つの落とし穴で書いた「導入が目的になる」の、いちばん起きやすい形がこれです。
順番は逆にします。先に、どの業務のどこが重いのかを決める。これまでご一緒した例でいえば、受発注メールの処理に毎日180分かかっていた会社や、EC商品ページの公開に5日かかっていた会社がありました。後者でいちばん効いたのは、実はAIの機能ではなく承認の流れを変えたことでした。制度から入っていたら、たどり着けなかった結論です。
他にもあります。ただし、探し方だけ
使える制度は、ここで扱ったものだけではありません。省力化投資を対象とする中小企業省力化投資補助金、設備投資や新サービス開発を対象とするものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金などがあり、さらに都道府県や市町村の独自制度もあります。
要件をここで並べても公募のたびに変わるので、探し方だけ覚えてください。J-Net21やミラサポplusで横断的に探し、そのうえで地域の商工会議所・商工会、よろず支援拠点に相談する。この2段構えで足ります。
そして、申請の可否や税務上の取り扱いといった個別の判断は、顧問税理士・中小企業診断士・認定経営革新等支援機関などの専門家に必ずご相談ください。この記事は制度の考え方の整理であって、個別の判断を保証するものではありません。
福岡県・福岡市は、窓口が先にあります
ここまでは全国共通の話でした。福岡には、制度を探す前に相談できる窓口があります。どちらも相談は無料です。
福岡県中小企業「稼ぐ力」応援センター(福岡市博多区吉塚本町/092-292-8890)。2025年10月に「福岡県中小企業DX推進センター」が置かれ、DX専門のアドバイザーが配置されました。県内に現場・事務所があれば利用できます。
福岡市中小企業サポートセンター(博多駅前・福岡商工会議所ビル2階/092-441-2171・要予約)。ITコーディネータが在籍していて、RPAやAI-OCRを含めた業務効率化の相談ができます。市内の中小企業が対象です。
そして、福岡で動くときに知っておきたいのはここです。福岡県の生産性向上・賃上げを支援する補助金は、このセンターの支援を受けていることが申請の前提になっています。支援計画の作成には2〜3か月程度かかるとされています。つまり「募集を見つけてから相談する」では間に合いません。相談が先で、制度は後です。
もうひとつ、見落とされやすい点を。この県の補助金には事業場内最低賃金の引き上げが要件に含まれます。AI導入にかかる費用だけを見て判断できる制度ではありません。募集の時期も回によって変わります。要件と締切は、必ず公式の公募要領でご確認ください。
結局、順番はこうです
グローカルワークスは創業から20年、100社を超える企業の業務改善に伴走してきました。AI導入支援に限っても20社を超えます。制度の話をする前に、まず「どの業務のどこが重いのか」を一緒に見つけるところからお手伝いできます。生成AIとの距離感の話から始めても構いません。福岡・九州はもちろん、オンラインでも対応します。
よくある質問
IT導入補助金は無くなったのですか?
無くなったわけではなく、2026年度から名称が変わりました。中小企業庁は2026年3月10日に「デジタル化・AI導入補助金2026」の公募要領を公開しています。正式名称は「中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金」です。検索では古い名前のページに当たることが多いので、金額や要件は、それが今年度の公募要領に基づく情報かどうかを必ず確認してください。
AIのツールなら何でも補助の対象になりますか?
そうではありません。この制度では、あらかじめ事務局に登録されたITツールを、登録された支援事業者と一緒に申請する形が基本です。「良さそうなAIサービスを見つけたので補助金で買いたい」という順番では進みません。使いたいものがあるなら、登録されているかを公式サイトで先に確認してください。対象範囲は公募回次で変わることがあります。
補助金が使えなかったら、AI導入は諦めるべきですか?
そうとは限りません。補助金は費用を軽くする手段のひとつであって、導入するかどうかの判断そのものではないためです。ご一緒してきた事例にも、月数千円のサービスと既存の表計算ソフトの組み合わせから始めたものがあります。補助金の可否にかかわらず、まず「どの業務のどこが重いのか」を先に決めておくことをおすすめします。
制度より先に、現在地を。
どの制度が合うかは、何をしたいかで変わります。まずは無料の診断で、自社の位置を60秒で確かめてみませんか。